現役で半導体化学メーカーのエンジニアをやっている、れおねると申します。
半導体化学業界の説明を聞くと…
どの化学メーカーが半導体製造プロセスのどの部分を担っているんだろう?
このようにモヤモヤする事はないですか?
実は私も半導体化学業界を良く分かっていない一人でした。
そこで、こちらの記事では…
- 半導体業界の化学メーカーに関する情報を得たい方に向けて
- 半導体化学メーカーの特徴
- 半導体の製造工程毎の化学メーカーまとめ
上記の内容を解説します。
半導体化学メーカーの特徴
始めの項目では、半導体化学メーカーの特徴として、上記3つを解説します。
電子機器が手元に届くまでの6ステップ
今や半導体は様々な電子機器に利用されているので、仕事にも生活にも無くてはならない存在。
そんな半導体産業を陰から支えている化学メーカーですが、化学メーカーから半導体製造、消費者への大まかな流れは以下のようになっています。
- 品質第一な半導体化学品ですが、その出発点はもちろんバルクケミカルになります。
- 半導体化学原料メーカーで半導体製造に利用する化学品の原料合成と精製をします。
- 半導体化学メーカーで調整し、半導体製造メーカーへ供給されます。
- 半導体製造メーカーの各製造プロセスで、半導体化学製品が使用されます。
- 組み立てメーカーで、パソコン、スマホなどにパッケージされます。
- 最後に販売店にパッケージされた商品が並び、消費者へ供給されます。
上記のうち、半導体向け化学品の製造を担っているのは、2と3になります。
次に、私が感じる原料メーカーと調整メーカーの特徴を説明します。
原料メーカーと調整メーカーの特徴
同じ半導体業界の化学メーカーの中でも、原料メーカーと調整メーカーでは景色が違い、よく話題に挙がるのは調整メーカーの方です。
そのバックグラウンドには、多くの原料メーカーの存在があります。
原料メーカー
半導体化学品の肝になる部分のため、研究開発に力を入れています。
製造メーカーから要求されるスペックに合うよう、後段の調整メーカーと連携し、反応スキームや精製方法を検討します。
世間ではあまり知られていない企業が多いですが、研究開発志望の学生は原料メーカーへ入社するようです。
一方、化学工学を学んだ学生が入社する事は非常に少なく、製造現場を見ると…
え…こんな原始的な方法で製造しているの…?
と、半導体化学の先端品を製造しているとは思えない風景が広がっています。
現場に人が張り付く工程も多く、自動化はほとんどされていません。
ただし、時代背景から半導体化学品の需要が高まってくるため、今後は生産効率や省人化などに力を入れていく事になります。
なので、化学工学が分かる学生・職歴がある人を強く求めています。
調整メーカー
化学を生業としている人にとって、誰もが知っている企業です。
前段から供給された原料を調整し、半導体製造メーカーに供給しています。
または、原料メーカーを経ずに、バルクケミカルから半導体化学品を製造・供給する製品もあります。
有名な化学メーカーなので、研究だけでなく化学工学が分かる人も一定数いるイメージです。
そのため、原料メーカーと比較すると、製造現場は洗練されているのではないでしょうか?
私は製造現場に人が居る事が当たり前の会社で育ってきたので、製造現場に人が居ない工場を見たとき、かなり驚きました。
私自身はそういう規模の企業で働いた事が無いため、
その実態を分かる人が居たら、是非教えて下さい。
半導体化学メーカーに求められる品質
半導体化学品はバッチプロセスで製造する事がほとんどなのですが、製品ごとに規格値があり、各ロットでその規格を満たせているか確認しています。
大まかには…
- パーティクル
- 金属値
- 水分
- 塩素
- 有機不純物
上記の5つになります。
他にもありますが、大抵の製品で確認される品質項目を挙げました。
次に、それぞれどのようなものなのか説明します。
パーティクル
パーティクル=微粒子になりますが、この微粒子とは一体何なのかというと、0.数μmの目に見えない微小な塵状の固体物質になります。
この微細なパーティクルがシリコン基板上に存在すると不良品となってしまい、半導体の良品率を示す「歩留まり」が低下してしまいます。
パーティクルだけでなくその他の品質項目も、歩留まり低下に繋がります。
引用:東京エレクトロン「歩留まり向上技術 装置内におけるナノサイズのパーティクル発生との闘い」
金属値
文字通り、製品に含有している金属になります。
一般的な話で言えば、水に含まれているマグネシウムとカルシウムの含有量で硬水または軟水に分類されるというのは、皆さんご存じかと思います。
それと同じく、半導体化学品でも金属分析を行っており、ICP-MSという分析機器を使って測定しています。
製品にもよりますが、一般品で要求される金属項目は15の金属(Li,Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Sn,Pb)で、規格はppb(parts per billion=10億分の1)オーダーになります。
さらっと規格を出しましたが、これがどれ位の感覚かと言うと、水深1mの25mプール(縦25m×幅10m)に水を入れて、食塩0.25gを溶かした時の濃度になります。
途方もなく微量の領域で半導体化学品が製造されているという事が、感覚的に理解できたのではないかと思います。
近年では、ppbからppt(part per trillion=1兆分の1)に移行すると言われていますから、今後要求されるグレードは更に高くなってくると考えられます。
最も、ここまでのグレードをきちんと分析できる環境が何より重要になります。
(分析機器しかり、人の技量しかり…。色々とシビアなのは間違いないです。)
水分・塩素・有機不純物
パーティクルと金属値は特にシビアですが、製品に含有している水や塩素、有機不純物も品質項目に挙げられます。
水分はカールフィッシャー水分計、塩素はイオンクロマトグラフィー、有機不純物はGC-FIDを使って、それぞれ分析をしています。
水分・塩素の規格はppmオーダー、有機不純物は製品のピーク以外、一切検出されないというグレードを保っていました。
コンタミリスクについて
半導体化学品業界で良く話題になる言葉が、このコンタミリスク。
上記5つの品質をチェックして、時には規格アウトになる事もありますが、その際「どこから侵入したのか?」がはっきり分からない事があります。
それは、以下のように考えるべきポイントがいくつもあるためです。
- 装置由来なのか?
- 装置に装着されている部品由来なのか?
- 上記2つどちらかの経年劣化なのか?
- 人由来なのか?
- 身に付けている保護具由来なのか?
- 分析作業中に混入したのか?
- 分析装置自体の問題なのか? etc…
原因が特定できる事もありますが、できない場合は可能性があるところをしらみつぶしに対策していく事もあります。
このコンタミリスクが念頭にあるため、
筋が悪くても実績のある製造方法が採用される訳です。
上記のように、知られざる半導体製品のシビアさを、少しでもお伝えできたのではないかと思います。
要求されるグレードは年々高くなり、需要量も多くなりと、より過酷さを増しています。
今後生き残っていけるかは、今現在の投資が不可欠になりますね。
各化学メーカーはどの製造プロセスを担っている?
半導体化学の大体の流れが分かったところで、各化学メーカーはどの半導体製造プロセスを担っているか、確かめてみましょう。
ここでは、半導体製造メーカーが行っている製造プロセスを一から説明するのではなく、半導体化学品が絡む工程と化学メーカーについて、一覧にまとめました。
製造工程 | 製品 | 化学メーカー |
---|---|---|
シリコンウエハー作成 | 単結晶シリコン | 信越化学工業 SUMCO |
研磨&洗浄 | 洗浄液 | 住友化学 富士フィルム |
レジスト塗布・露光 | フォトレジスト | 東京応化工業 JSR 信越化学工業 住友化学 富士フィルム |
現像 | 現像液 | トクヤマ |
エッチング | エッチングガス | 昭和電工 大陽日酸 ADEKA |
平坦化 | CMP | 日立化成 AGC 富士フィルム |
めっき配線 | めっき液 | 日本高純度化学 ADEKA |
主要な化学メーカーを記載しましたが、その前段の半導体化学原料メーカーも含めると、多くの日本の化学メーカーが半導体製造に関わっている事が分かります。
また、この中でもシリコンウエハーは日本企業だけで世界シェア6割、フォトレジストは日本企業だけで世界シェア8割と、高いシェアがあります。
半導体市場は衰退しましたが、半導体材料は日本企業の強さが光りますね。
(昨年の件もあり、今後どうなるかは未知数ですが。。)
フォトレジストについて知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
エッチングについて知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
薄膜について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
半導体化学業界で使われるフッ素、SUSなどの材質について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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最後に、理系に特化した就職・転職サービスのご紹介です。
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まとめ
今回、半導体化学メーカーの特徴&7つの製造工程毎のメーカーまとめについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
上記の内容をまとめると…
- 半導体化学メーカーの特徴
- 原料メーカーと調整メーカーで役割は異なる
- 原料メーカーは世間であまり知られていないメーカー
- 調整メーカーは誰もが知っているメーカー
- 製造工程毎のメーカー
- 半導体素材が関わる7つの製造工程毎に化学メーカーを紹介
既に知られている内容だったかもしれませんが、改めて日本の半導体化学メーカーの強さを感じられたのではないかと思います。
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