ろ過の手段や膜、モジュールはどう選定すれば良いのだろう?
膜ろ過プロセスでは多くの選択肢から決定しなければならないので、何を基準に選べば良いのか良く分からずに困る事は無いでしょうか?
そこで、こちらの記事では…
- 膜ろ過プロセスの検討を始めて、膜の選定方法を知りたい方に向けて
- 膜を選定する前に事前に知りたい情報
- 膜ろ過の手段
- 膜の材質と特徴
- 膜モジュールの選択
上記の内容を解説します。
膜ろ過プロセスで事前に知りたい情報とは何か?
- 被分離液に含まれている物質の種類と分子量
- それぞれの物質の濃度
- 懸濁物質
まずは、膜の選定をする前に、膜ろ過する被分離液(膜を通す前の原水)の液性を細かく見る必要があります。ここで大事なのは…
膜ろ過は技術的にも確立しており、万能のように受け取られることがあります。
また、蒸留のように多くのエネルギーを必要としないため、次世代の省エネルギー分離技術として注目されています。
しかし、被分離液の液性をしっかり把握していないと、分離したい物質が通過してしまう or 液自体がほとんど膜を通過しない(透過流束がでない)など、思いもよらない事が発生します。
被分離液に含まれている物質の種類と分子量
蒸留は沸点差(気液平衡)、抽出は分配比(液液平衡)といった具合に、物性・性状において何らかの差が無ければ、混ざっている物質を分離する事はできません。
では、膜ろ過プロセスでその差が何なのかというと…
透過速度差
- 溶質サイズ(nm~μmオーダー)
- 分子量(10~105オーダー)
化学工学で良く利用されている平衡の原理とは異なり、膜を通過する成分の速度の差によって分離できます。その速度に効いてくるのが、溶質サイズと分子量になります。
つまり、分離したい物質以外に含まれているものの溶質サイズ or 分子量が近い場合、それらを膜ろ過プロセスで分離する事はできない、という事になります。
溶質サイズと分子量
上記のように、溶質サイズと分子量によって、どの膜を使えば良いかの羅針盤があります。
それぞれの膜分離法については後述します。
それぞれの物質の濃度
被分離液に塩や有機物などが溶けている場合、それぞれの濃度も把握する必要があります。
物質が溶けている溶液には浸透圧がかかり、逆浸透法で膜分離をしたい場合は、その浸透圧以上の圧力をかけなければなりません。
さらに、被分離液に含まれている複数物質の分子量が近く、膜により捕捉できる場合、それら全てが浸透圧にかかってきます。
一般的な海水淡水化で7MPaと言われていますから、色んな有機物が溶けていれば十数MPa以上の圧力が必要となり、液を通す事すらできないという事態になります。
ファントホッフの法則
引用:化学のグルメ 「ファントホッフの法則・水銀柱・生食を使った問題」より
- 希薄溶液では濃度に比例して浸透圧が大きくなる
- 濃度が濃い溶液では浸透圧が指数的に上がり、ファントホッフの法則に従わなくなる
さらに、物質によって上がり方が異なる
逆浸透法で検討する際に必ず出てくるのが、高校化学のときに習ったファントホッフの法則になります。
海水の塩分濃度3.4%で約2.5MPaの浸透圧がありますので、淡水化する際には少なくとも2.5MPa以上の圧力は必要になります。
さらに、海水淡水化技術では透過流束を大きくしたいため、7MPaまで操作圧力を上げて透過流束を50 kg/(m2・hr)まで上昇させています。
時間あたりに必要な淡水量が決まっていれば、透過流束から必要な膜面積が求められるという流れです。
注意点は…
有機溶媒が数wt%含まれている被分離液では浸透圧が予想以上に高く、膜をほとんど通過しないという事が起こります。
よって、膜メーカーが販売している膜を使ってテストしてみない事には、自分達の系に膜ろ過プロセスが利用できるか分かりません。
参考文献:膜プロセス解析法 浸透圧
懸濁物質
水中に浮遊している固体粒子を指し、「2mmのふるいを通過し、孔径1μmの濾過材上に残留する物質を浮遊物質とする。」と定義されています。
この懸濁物質(ファウラント)の存在により、膜の孔内を閉塞したり、膜の表面に堆積して透過流束の低下を引き起こします(ファウリング)。
透過量を一定にするには操作圧力を徐々に上げる必要がありますがエネルギーロスにも繋がり、一定の圧力に到達した際に薬液洗浄をする必要があります。
このランニングコストが合うかどうかが、膜ろ過プロセスの導入を決める判断材料となります。
なお、このファウリング現象は懸濁物質だけに発生するのではなく、タンパク質や多糖(オーガニックファウリング)、バクテリア(バイオファウリング)なども該当します。
膜ろ過の手段
- 精密ろ過(MF)
- 限外ろ過(UF)
- ナノろ過(NF)
- 逆浸透(RO)
次に、代表的な膜ろ過の手段と特徴を簡単に説明します。
被分離液に含まれている物質に応じて、適した膜ろ過の手段を選択します。
参考文献:膜透過現象の定式化と膜および膜分離プロセスの設計技術
精密ろ過
- メンブレンフィルターを利用したろ過方式
- 細孔径は0.1~10μm
- 大腸菌などの細菌やエマルションを除去できる
- ろ過膜表面で粒子を捕捉する
- 操作圧力は0.2MPa以下
限外ろ過
- 多孔質膜を利用したろ過方式
- 細孔径は2~100nm
- ウイルス、タンパク質、糖類など目に見えない微小なコロイドを除去できる
- 操作圧力は0.2~0.5MPa
ナノろ過
- 以下2つの分離方法が複合化した膜を利用したろ過方式
- 膜の細孔と分子の大きさにより分離するふるい分離
- 膜、溶質と電荷の静電反発に基づく静電分離
- 基本的な原理は逆浸透法
- 細孔径は1~2nm
- 有機溶剤、農薬、アミノ酸、多価イオンなどを除去できる
- 操作圧力は0.5~1.5MPa
逆浸透
- ナノろ過と同様の膜構造を利用したろ過方式
- 細孔径は1Å(0.1nm)
- 塩などの1価イオン、低分子有機物などを除去できる
- 操作圧力は4MPa以上(必要な透過流束によって変わる)
逆浸透については、以下の記事を参照ください。
膜の材質
- 酢酸セルロース
- 芳香族ポリアミド
- ポリテトラフルオロエチレン
- ポリオレフィン
- ポリスルホン
- ポリエーテルスルホン
- セラミック膜
全てではありませんが、代表的な膜の材質として上記のものがあります。
以下にそれぞれの特徴を説明します。
酢酸セルロース
引用:ダイセル 酢酸セルロースとは
芳香族ポリアミド
ポリテトラフルオロエチレン
ポリオレフィン
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン
参考文献:公開特許「ポリスルホン系多孔質膜の製造方法」
参考文献:公開特許「親水化ポリエーテルスルホン分離膜およびその製造方法」
セラミック膜
膜モジュールの選択
- プレート&フレーム
- スパイラル
- 中空糸膜
- チューブラ
膜ろ過装置の基本的な構成は、圧力容器内に膜が設置され、液の入り口が一つ、膜を通過した液と濃縮した液の出口が二つあります。(クロスフロー方式)
ここでは、その膜モジュールの種類と特徴を説明します。
プレート&フレーム、スパイラル
中空糸膜
チューブラ
まとめ
今回は、「膜ろ過プロセスにおける膜の種類・選び方と注意点」をテーマに紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
- 膜ろ過プロセスで検討しようとしている被分離液は、本当に膜ろ過で分離できるか分析する必要がある。
- 膜ろ過の手段は4つあり、目的・原水の性状に応じて使い分ける
- 膜の材質で得意・不得意があり、また上記の4つ全ての手段に使われている訳ではない
- 膜モジュールは目的や原水の性状、設置スペース、ランニングコストを考慮して選択する
膜ろ過プロセスを設計するには、多くの選択肢から決定しなければなりませんが、本記事で少しでもその道筋が見えたら幸いです。
膜ろ過プロセス開発の流れは以下の記事を参照ください。
その他の水処理技術について知りたい方は、下記の記事を参照ください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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