汚れた水を綺麗にする5つの分離技術を化学工学を交えて解説

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日本の水処理技術は非常に高いと呼ばれているけど、具体的にどのような技術があるんだろう?

れおねる
れおねる

小学校の頃に水処理施設へ工場見学に行った事がある方もいると思いますが、水処理技術は化学工学と密接に関わっています。

そこで、こちらの記事では…

  • 水処理についてどんな技術があるのか知りたい方に向けて
    • 水を綺麗にするために使われている5つの分離技術

水処理には微生物処理、UVによる殺菌、オゾン酸化による分解もありますが、今回は分離技術に絞って紹介します。

水処理技術は化学工学の集合体

利用されている分離技術

  • イオン交換
  • 吸着
  • 膜分離
  • ろ過
  • 沈降・浮上・遠心分離

化学工業でプロセスを合理化するために使われる化学工学ですが、水処理技術にも至る所で化学工学の知見が使われています。

特に、分離技術については上記の5つが主に利用され、その分離技術により磨かれた水が、あらゆる産業で利用されています。

  • 工業用水
  • 農業用水
  • 水産用水
  • 発電用水
  • 半導体製造用水
  • 医薬用水
  • 食品製造用水
  • 科学実験・分析用水

下記には、5つの分離技術の原理と何を分離しているのかを紹介します。

イオン交換

  • イオン交換樹脂を利用して水中のイオン状物質を除去
  • 樹脂と水中のイオンには平衡関係が働くため、平衡定数の数値から分離可否を判断する
  • 陽イオン交換樹脂にはスルホン基、陰イオン交換樹脂にはアミノ基が導入されている
  • ボイラー用水&熱交換器の冷却水の軟化処理には陽イオン交換樹脂を利用
  • 純水製造には陽・陰イオン交換樹脂を利用

基礎式は下記のアイコンをクリックして展開することで、表示できます。

イオン交換平衡の基礎式

交換反応の式は

$$A^{\pm}+\left(\frac{z_A}{z_B}\right)BR\rightleftharpoons\left(\frac{z_A}{z_B}\right)B^{\pm}+AR$$

質量作用の法則より、濃度基準の平衡定数\({K_B}^A\)の平衡関係は以下のようになる

$${K_B}^A=\left(\frac{\overline{c}_A}{c_A}\right)/\left(\frac{\overline{c}_B}{c_B}\right)^{{z_A}/{z_B}}$$

ここで、樹脂の全交換容量\(Q_0(=\overline{c}_A+\overline{c}_B)\)、液の全イオン濃度\(c_0(=c_A+c_B)\)より、

$${K_B}^A\left(\frac{Q_0}{c_0}\right)^{\frac{x_A}{x_B}-1}=\frac{(1-x_A)^{z_A/z_B}y_A}{x_A(1-y_A)^{z_A/z_B}}$$

$$x_A=c_A/c_0 , y_A=\overline{c}_A/Q$$

平衡定数の値&イオン交換平衡関係から、分離のしやすさが分かる

「登場した記号まとめ」

\(z_A[-]\):Aのイオン価

\(z_B[-]\):Bのイオン価

\({K_B}^A[-]\):イオン交換の平衡係数

\(c_A[keq/m^3]\):Aのイオン濃度

\(c_B[keq/m^3]\):Bのイオン濃度

\(\overline{c}_A[keq/m^3]\):Aイオンの樹脂相濃度

\(\overline{c}_B[keq/m^3]\):Bイオンの樹脂相濃度

\(Q_0[keq/m^3]\):樹脂の全交換容量

\(c_0[keq/m^3]\):溶液の全イオン濃度

\(x_A[-]\):Aイオンの液相イオン率

\(y_A[-]\):Aイオンの樹脂相イオン率

イオン交換樹脂の構造の例

溶液中のイオンとイオン交換樹脂の末端(H+ or OH)が、水中のナトリウムなどの陽イオン or 塩素などの陰イオンと交換することで、溶液中のイオンを分離できます。

吸着

  • 多孔性の吸着材を利用してトリハロメタン、カビ臭などの有機物(吸着物)を除去
  • 吸着物の吸着速度と脱着速度に平衡関係が働くため、吸着平衡定数から分離可否を判断する
  • 水処理で利用される吸着材は活性炭が広く利用されている
  • 使用目的に応じて、粒度や細孔の大きさなどの異なる種類が存在する
  • 私生活に馴染みがあると言えば、家庭用浄水器に多く利用されている

基礎式は下記のアイコンをクリックして展開することで、表示できます。

吸着の基礎式

ラングミュア型吸着等温線: 単分子層吸着を仮定した式

$$q=\frac{{q_s}Kp}{1+Kp}$$

フロインドリッヒ型吸着等温線: 液相吸着の際に適合する式

$$q=kp^{1/n}$$

BET型吸着等温線: 分子が積み重なって多分子層を形成し、無限に吸着できると仮定した式

$$q=\frac{{q_m}bx}{(1-x)(1-x+bx)}$$

物質と吸着材への吸着のしやすさによって、単位吸着量と吸着率に差が生まれる

「登場した記号まとめ」

\(q[kg/kg]\):単位吸着材量に対する平衡吸着量

\(q_s[kg]\):飽和吸着量

\(K[-]\):吸着平衡定数

\(p[-]\):吸着質の分圧

\(k[-]\):フロインドリッヒ定数

\(n[-]\):フロインドリッヒ定数

\(q_m[kg]\):単分子層の飽和吸着量

\(x[-](=p/p_0)\):比圧(\(p\):平衡圧、\(p_0\):飽和蒸気圧)

\(b[-]\):定数

引用:株式会社MET 炭と活性炭の違い

活性炭には細孔部に反応活性があり、それを利用して物質を吸着できます。

また、この細孔の大きさによって、吸着特性が異なります。

膜分離

  • 膜を介して物質移動が生じる事を利用して、溶液中のイオン、タンパク質、ウィルスなどを除去
  • 透過速度差によって分離するため、溶質サイズ・分子量の差から分離可否を判断する
  • 分離したいものの大きさによって、選択する膜が異なる

膜分離の詳細は以下の記事をご参照ください。

ろ過

  • メンブレン・不織布などのろ材を利用して、微粒子、微生物、コロイド状物質などの固体を除去
  • 粒子サイズによって分離するため、ろ材の孔径から分離可否を判断する
  • ろ過形式には表面ろ過、深層ろ過、ケークろ過の捕捉モデルがある
  • 不織布の材質には、ポリプロピレンやポリエステルを使用
  • 排水や下水の固形物除去に利用されている

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ろ過の基礎式

ろ材の単位面積当たりのろ液量\(V[m^3/m^2]\)、ろ過時間\(t[s]\)とする

ろ過速度\(dV/dt\)は、ケーキ抵抗\(R_C[1/m]\)とろ材の抵抗\(R_M[1/m]\)の和に反比例、

ろ過の圧力差\(\Delta{P}(=P_1-P_2)[kg/m{\cdot}s]\)に比例するため、

$$\frac{dV}{dt}=\frac{{\Delta}P}{{\mu}(R_C+R_M)}\tag{1}$$

また、ろ過速度が時間経過とともに小さくなる事から、ケーキ厚さがろ液量に比例すると仮定した場合、ケーキ抵抗\(R_C\)は、

$$R_C={\alpha}CV\tag{2}$$

記号の意味はそれぞれ、\(C[kg/m^3]\):固体粒子の濃度、\({\alpha}[m/kg]\):比例定数

(2)を(1)に代入すると、

$$\frac{dV}{dt}=\frac{{\Delta}P}{{\mu}({\alpha}CV+R_M)}\tag{3}$$

さらに、ろ過定数を下記のように置く

$$V_0=\frac{R_M}{{\alpha}C}\tag{4}$$

$$a=\frac{1}{{\mu}{\alpha}C}\tag{5}$$

ろ過定数(4)、(5)を利用して、(3)を変形する

$$\frac{dV}{dt}=\frac{a{\Delta}P}{V+V_0}\tag{6}$$

(6)の基礎式を、ろ過の操作に応じて展開していく

「登場した記号まとめ」

\(V[m^3/m^2]\):単位面積当たりのろ液量

\(t[s]\):ろ過時間

\(R_C[1/m]\):ケーキ抵抗

\(R_M[1/m]\):ろ材の抵抗

\({\Delta}P[Pa]\):ろ過圧

\(\mu[Pa{\cdot}s]\):粘度

\(C[kg/m^3]\):固体粒子の濃度

\(\alpha[m/kg]\):比例定数

\(V_0[m^3/m^2]\):ろ過定数

\(a[m^3{\cdot}s/kg]\):ろ過定数

沈降・浮上・遠心分離

共通の原理

  • 流体中の固体物質そのものを沈降もしくは浮上させる事によって、微粒子を除去
  • 流体中の移動速度の差によって分離するため、粒径、流体・粒子の密度、流体の粘性から分離可否を判断する
  • 微粒子の分離にはろ過を含め様々な手段がある
    ☞ 推進力の大きさが分離効率を高めるため、最も推進力が大きい手段を選択する

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沈降・浮上・遠心分離の基礎式

粒子の流体中の動きを式で表すと、粒子の質量×加速度=重力-浮力-流体抵抗力の関係が成り立つので、

$${{\rho}_p}{V_p}\frac{du}{dt}=({{\rho}_p}-{\rho}){V_p}g-R_f\tag{1}$$

記号の意味はそれぞれ、\({\rho}_p[kg/m^3]\):粒子の密度、\(V_p[m^3]\):粒子の体積、\(\rho[kg/m^3]\):流体の密度、\(g[m/s^2]\):重力加速度、\(R_f[N=kg/m{\cdot}s^2]\):流体抵抗力

抵抗力は粒子の面積に対して逆向きの流れになるので、

$$R_f=C_D\frac{1}{2}{\rho}{u^2}A_p\tag{2}$$

記号の意味はそれぞれ、\(C_D[-]\):抵抗係数、\(u[m/s]\):流体の速度、\(A_p\):粒子の面積

粒子の体積\(V_p\)や面積\(A_p\)を直径\(d_p\)の球と考えると、

$$V_p=\frac{\pi}{6}{d_p}^3\tag{3}$$

$$A_p=\frac{\pi}{4}{d_p}^2\tag{4}$$

(2)、(3)、(4)を(1)に代入すると、

$$\frac{du}{dt}=\left(1-\frac{\rho}{{\rho}_p}\right)g-\frac{3{\rho}u^2}{4{{\rho}_p}{d_p}}C_D\tag{5}$$

静止状態から運動を始めて、式に従って時間と共に粒子は加速、一方で抵抗力が増加する

十分な時間が経過し、加速と抵抗が等しくなると加速度は0になり、それ以降は等速になる

このときの速度\(u_∞\)を終末速度といい、(5)で\(du/dt=0\)とすると、

$$u_∞=\sqrt\frac{4g{d_p}({\rho_p}-{\rho})}{3{\rho}C_{D∞}}\tag{6}$$

抵抗係数は粒子周りの流れの状態を表すレイノルズ数の関数になるので、

$$Re=\frac{{\rho}ud_p}{\mu}\tag{7}$$

また、レイノルズ数が以下の範囲では、抵抗係数とレイノルズ数の関係は、

$$Re\lt0.4\tag{8}$$

$$C_D=\frac{24}{Re}\tag{9}$$

上記の関係をストークスの法則といい、レイノルズ数が小さい範囲でこの関係が成り立つ

(9)を(6)に代入すると、

$$u_∞=\sqrt\frac{4g{d_p}({\rho_p}-{\rho})}{3{\rho}C_{D∞}}=\frac{g{{d_p}^2}(\rho_p-\rho)}{18\mu}$$

粒子の見かけ密度を変えて、沈降もしくは浮上の運動になる

「登場した記号まとめ」

\(\rho_p[kg/m^3]\):粒子の密度

\(V_p[m^3]\):粒子の体積

\(\rho[kg/m^3]\):流体の密度

\(g[kg/s^2]\):重力加速度

\(R_f[N=kg/m{\cdot}s^2]\):流体抵抗力

\(C_D[-]\):抵抗係数

\(u[m/s]\):流速

\(A_p[m^2]\):粒子の面積

\(d_p[m]\):液滴径

\(u_∞[m/s]\):終末速度

\(Re[-]\):レイノルズ数

沈降

  • 凝集剤を利用した粒子の凝集操作によりフロックを形成し、移動速度を大きくする
    ☞ 凝集とは?
    コロイド粒子を含む水中に金属塩を添加し粒子の荷電を中和、フロックに成長させる事
  • ポイント
    ☞ 密度が大きい&粒径が大きくなる凝集条件の検討 ➯ 綺麗な水を得るポイント
  • 小さい粒径のフロックには傾斜板を利用して効率的に分離する

浮上

  • フロックに泡を付着させ、泡の浮力でフロックを浮かせる
  • 泡の浮力が沈降に比べて非常に大きければ、沈降分離槽より浮上分離槽を小さくできる
  • 泡は数~数十µmのマイクロバブルを使用
  • 泡の発生方法
    ① 0.3~0.7 MPaに加圧した水に圧縮空気を混合し、空気を溶解
      ☞ 気体の溶解度はヘンリーの法則を利用
    ② 空気を溶解した加圧水を廃水フローへ投入すると、圧力が大気開放
    ③ 水へ溶解しきれなくなった空気がマイクロバブルとなって析出

遠心分離(サイクロン)

まとめ

今回は、「水処理に利用される5つの分離技術」をテーマに紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?

  • 水処理の分離技術にはイオン交換、吸着、膜分離、ろ過、沈降・浮上・遠心分離の5つがある
  • 5つの分離技術それぞれで、分離する対象物が異なる
    ☞ 求められている水質によって、採用する分離手段が異なる
  • 対象物に応じて、各段階で最も推進力が大きい分離手段をプロセスに入れる

SDGsに関連する新規分離技術について知りたい方は、下記の記事を参照ください。

れおねる
れおねる

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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