気液平衡の計算をエクセルでやりたいんだけど、どのような手順を踏めば良いんだろう?
今は高機能なプロセスシミュレータがあるので、ほとんど何も考えずに化工計算ができてしまうのがある意味悩みですよね。
シミュレーションソフトは値を入力して結果を出せますが、中身がどうなっているか良く分からず、①計算の中身がブラックボックス化している、②シミュレーションソフトの扱い方が難しい、などの弊害もあるようです。
そこで、こちらの記事では…
上記の内容を解説します。
エクセルはあくまで表計算ソフトですが、特化していない分汎用性が高いため、ある程度の化学プロセス計算ができるツールです。
「これ以上は計算が複雑になりすぎてできない…」といった場面で、他の高機能なプロセスシミュレータに切り替えます。
簡単な四則演算でグラフ作成ができますので、一つずつクリアしていきましょう。
事前準備:エクセルの便利な機能
化工計算ではお馴染みのツールです。今回、VBAは使わないので割愛します。
ゴールシーク
ソルバー
エクセルを利用した気液平衡計算の手順(理想溶液)
気液平衡は、蒸留を利用した成分分離をするために化学工業では古くから使われており、蒸留塔のプロセス設計には欠かせない技術です。
今回は、理想溶液としてベンゼンートルエンの2成分系気液平衡の計算を行ってみます。
多くの化学工学の教科書で扱われている基本的な系になりますので、練習するにはもってこいの題材と言えます。
Antoine式から蒸気圧を算出
気液平衡の計算を行う際、始めに出てくるのがこのAntoineの蒸気圧式になります。純物質毎に式中の定数は異なるのですが、これは蒸気圧データ集から調べる事が一般的です。
このとき注意しなければならないのは…
このAntoine定数は、温度範囲内のときに利用できることを保証していますので、その温度から外れてしまうと正確な蒸気圧を計算できず、間違った気液平衡データを算出してしまいます。
高圧もしくは減圧の圧力条件における気液平衡を算出したい場合、その温度範囲が外れていたら、ラボ実験からその圧力における純物質の沸点を取得して、新たにAntoine定数を求めます。
なお、Antoine式に利用範囲がある理由は、『アントワン定数の算出法』を参照すると良いでしょう。
Antoine定数を求めるためにラボ実験する場合、使う装置は基本的に何でも構わいません。
精度を重視したい場合は、エブリオメーターを使うと良いでしょう。気液平衡測定の装置ですが、純物質の沸点データを取得する際にも利用します。
Antoine式とは?
ここではエクセルを利用して気液平衡を計算する事がゴールになりますので、Antoine式の説明は割愛します。詳しく知りたい方がいれば、わいけみ(@ychemi1)さんの「【蒸留】導入編② 蒸気圧を表す式 ~Antoine(アントワン)式~」を参照すると良いでしょう。
Raoultの法則、Daltonの法則を利用して気液平衡を計算する
Antoine式を利用した蒸気圧の求め方が分かったところで、いよいよ本題の気液平衡の計算になります。
ここでは、先ほどのAntoine式に加えて、Raoultの法則、Daltonの法則を利用します。まずは、任意に液相組成を設定して、上記3つの式を使って気相組成を求めていきます。
ここで、気液平衡にも2つの種類があり…
上記のように違いがあります。
それぞれ、計算方法とグラフ作成し、その違いを見ていきましょう。
定温気液平衡の場合
定温気液平衡の場合は、上記の表とグラフのようになれば完成です。
式の入力は面倒ですが、温度一定の場合は素直に式へ値を入れるだけで結果が出てきますので、それほど難しくはなかったのでは無いでしょうか。
定圧気液平衡の場合
定温気液平衡と異なる作業には、手順の項目において黄色のアンダーラインで示しています。
定圧気液平衡の場合は、圧力が一定で純物質の温度(沸点)は分かるのですが、混合物の温度については最初分からない状態からスタートします。
なので、温度を仮設定してあげて全圧を算出するのですが、そのとき圧力は一定なので常圧の値になっていなければなりません。
しかし、適当に仮設定したので、当然実際の圧力と計算によって出した圧力に差が生じています。
この差を0にするための温度を逆算してあげれば、正規の温度が出てくる訳です。
ここでその逆算できる手法としてゴールシークがあるのですが、これを一つずつやっていくのは大変面倒くさいです…。
そこで、登場するのがソルバーです。
ソルバーというエクセルの機能を使う事によって、面倒な作業をボタン一つで解決することが出来ます。
学生の頃は講義の一環でエクセルを使わずに出していましたが、温度を逆算するには試行法を使わざるを得なかったので、大変面倒だったのを覚えています。
Raoultの法則とは?
上記に高校化学のとき習ったDaltonの分圧の法則を利用すれば全圧を求められますので、最後に気相成分が求められる、という手順になります。
今回の記事の目的上、Raoult、Daltonの法則や、気液平衡の原理に関する説明もAntoine式と同様に割愛しています。それぞれの定義を詳しく知りたい方は、こーし(@mimikousi)さんの「【ラウールの法則】気液平衡とは?(理想溶液編)」を参照すると良いでしょう。
エクセルを利用した気液平衡計算の手順(非理想溶液)
理想溶液では、Raoultの法則が成り立つ系で気液平衡の計算を行うことができました。
しかし、Raoultの法則が成り立たない系では活量係数を導入するなど、理想溶液とは少々異なるアプローチが必要になります。
活量係数式の種類と選択
活量係数式について詳しく知りたい方は、ルート(@Route_reviewer)さんの「化学工学用語集」を参照すると良いでしょう。
Antoine式、Raoult・Daltonの法則、活量係数式を利用して定圧気液平衡を計算する
エタノールー水系の定圧気液平衡の場合は、上記の表とグラフのようになれば完成です。
グラフ作成までの方法は定圧気液平衡を求める手順と同様ですが、間に活量係数式を入れる必要があり、かつ式が長いため、割と混乱することもあったかと思います。
グラフを見てもお分かりいただける通り、理想溶液のグラフとはえらく形が違いますね。
エタノールー水系では上記の形ですが、他の組み合わせではまた違った形になるので、それぞれグラフを見てどのように蒸留すれば上手く成分を分離できるか判断します。
さらに余談ですが、通常の方法で限界まで蒸留して製造したお酒が、ポーランドを原産地とするウォッカで有名なスピリタスになります。
書籍紹介
続いて、エクセルを利用した化学工学の計算を学びたい方に、下記3つの書籍を紹介します。
Excelで気軽に化学工学
Excelで気軽に化学プロセス計算
化学工学のための数値計算
理系の就職・転職サービスのご紹介
最後に、理系に特化した就職・転職サービスのご紹介です。
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まとめ
今回は、「エクセルによる気液平衡の計算」をテーマに紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?上記の内容をまとめると…
- 理想溶液
- 各成分の蒸気圧を求めるため、Antoine定数を調査
- Raoultの法則、Daltonの法則から定温気液平衡、定圧気液平衡を求める
- 定圧気液平衡を求める際はソルバーを利用する。
- 非理想溶液
- 活量係数式の選択と活量係数のパラメータを調べる
- 気液平衡の計算には上記の活量係数を含める
- それ以外の方法は理想溶液の気液平衡の求め方と同様
以上のようになります。
社会人で使える化学工学に関するウェブサイトを知りたい方は、下記の記事を参照ください。
プロセス開発をどのように進めたら良いか、その考え方を知りたい方は、下記の記事を参照ください。
高機能なソフトが様々開発されていますが、基礎を学ぶにはエクセルを利用した化工計算がもってこいです。
化学工学の基礎を学びたい方は、是非エクセルを利用してチャレンジしてみて下さい。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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