
フォトレジストって何?

総論、半導体製造には欠かせない化学薬品の一つです。
しかし、一般の方には馴染みが無いため、ネットで調べても分かりづらいですよね…。
そこで、こちらの記事を読むことで…
- フォトレジストについて調べてもよく分からなかった方に向けて
- フォトレジストをざっくり言うとこんな役割がある!
- 世界のフォトレジストメーカーが分かる!
- フォトレジストの歴史=半導体の歴史が分かる!
上記の内容が分かります。
フォトレジストの役割
- 半導体の元となるシリコンウェハ上に、電子回路を形成する役割
- 電子回路を形成して欲しくない部分を保護する役割
フォトレジストの役割は大きく2つありますが、簡単に言えば、絵画に下絵を描くような作業を指します。
フォトレジストは化学薬品で、日ごろ皆さんが浴びている蛍光灯などの光で化学反応します。
その化学反応した部分だけが、電子回路を形成できます。いわゆる、ICチップと呼ばれるものです。
詳細は以下で説明しますが、昔良く使われていたフィルム写真の技術を応用したものになります。
露光と現像の原理はカメラのフィルムをイメージする


- カメラのフィルムはハロゲン化銀を感光用の物質として使用
- フィルムに光をあてると(露光)、ハロゲン化銀結晶の一部が分解し銀になる(潜像核)
☞フィルム上に画像パターンを作る(潜像)
☞潜像の状態では肉眼で見えない - ハロゲン化銀を還元する薬品(現像液)に感光したフィルムを漬ける
☞目に見える量まで銀の量を増やす操作(現像)
☞潜像核を含んだ全てのハロゲン化銀が還元され銀となり黒化する - 未露光部分のハロゲン化銀を溶解させる液体(定着液)を使って除去(定着)
写真と言えば、今はスマホなどのデジタル画像が一般的ですが、ひと昔前はフィルムカメラによるものが主流で、この露光と現像の原理を使ってフィルムのネガにしていました。
このネガを利用して印画紙にプリントする場合は…

- ネガと印画紙の間にレンズを設置する
- ネガ側から光を当てる
- レンズが拡大鏡の役割をし、印画紙に投影
- 印画紙の感光物質が転写技術で黒化し、画像が出来上がる
このような流れで、皆さんが目にしたことのある写真へとプリントされる訳です。
これを半導体製造に利用するとどうなるのか、次項で見ていきましょう。
露光・現像の技術を半導体製造に利用する
前項で写真の露光と現像について説明しましたが、半導体製造でも基本的にやってる事は同じです。
- 半導体デバイスは感光性樹脂(フォトレジスト)を感光用の物質として使用
- シリコンウェハに塗布されたフォトレジストに光をあてる(露光)
☞露光された部分のフォトレジストが化学反応を起こす
☞露光された部分のフォトレジストは現像液による溶解性が増す
☞フォトレジスト上に画像パターンを転写する - 現像液で感光された部分のフォトレジストを溶解させる
☞フォトレジスト上に画像パターンを形成する - エッチング後に未露光部分のフォトレジストを除去する
上記のポイントを見ると、写真の露光・現像技術とやっている手順はほとんど同じですね。
ただ、1点注意しなければならないのが、写真ではフィルムと印画紙に感光物質が塗布されていましたが、半導体ではシリコンウェハ上に塗布されているので…

- フォトマスクとフォトレジストが塗布されたウェハの間にレンズを設置する
- フォトマスク側から光を当てる
- レンズが縮小鏡の役割をし、フォトレジストに投影
- 現像、エッチング後に未露光のフォトレジストを除去
写真ではフィルムに画像パターンが形成されていますが、半導体の場合はフォトマスクと呼ばれる回路パターンを使ってフォトレジストに投影させています。
日本では、このフォトマスクを印刷業界が製造していますね。他にも、フォトマスクを専門に製造しているメーカーもあります。
フォトレジストメーカー
日本のメーカーが世界シェアの8割を握っていると言われてますが、日本だけでなく海外にもどのようなメーカーがあるのか見てみましょう。
日本
海外
- Dow Chemical Company
- Merck
- Dongjin Semichem
フォトレジストの内容物にはこういうものが入っている
最後に、フォトレジストにはどのような物が入っているのかを確認しましょう。
メインの感光剤の含有量は、全体から見れば非常に少ないです。
- ポリマー
- 感光剤
- 添加剤
- 溶剤
フォトレジストの歴史
半導体の発展は微細加工技術の発展

単位面積辺りで考えると、線幅を狭くした方が多くのトランジスタが搭載できます。
今や人間の手のひらに高性能なコンピューターがある時代で、生活の中で半導体が欠かせないモノとなっています。
その陰で、半導体性能を決める化学薬品のフォトレジストと露光装置の進化は、切り離せない関係となります。
次に、露光装置とフォトレジストの歴史を追ってみましょう。
4つのフォトレジストと露光装置の光源

前項では半導体性能の向上にはトランジスタを増やすことが必要で、物理的にはシリコンウェハ上の線幅を狭くする必要があると記載しました。
では、その線幅を狭くするにはどのようにすればよいか?
- 露光に使っている光の波長を短波長にシフトしていく事
- その波長域で回路形成という役割をしっかり果たすフォトレジストの開発
以上の2点が必要になってきます。
年代 | 光源 | 波長 | 光源分類 | 露光装置 |
---|---|---|---|---|
1960年代 | ー | ー | 高圧水銀灯 | コンタクト露光 |
1970年代 | ー | ー | 高圧水銀灯 | プロキシミティ露光 |
1980年代 | g線 | 436nm | 高圧水銀灯 | 縮小投影露光 |
1990年代前半 | i線 | 365nm | 高圧水銀灯 | 縮小投影露光 |
1990年代後半 | KrF | 248nm | エキシマレーザー | ステップ・アンド・ スキャン露光 |
2000年代 | ArF | 193nm | エキシマレーザー | ステップ・アンド・ スキャン露光 |
2007年~ | ArF液浸 | 193nm | エキシマレーザー | 液浸露光 |
2019年~ | EUV | 13.5nm以下 | 極端紫外線 | 真空露光 |

半導体製造ラインやフォトレジストを扱うところではイエローライトが使われています。

イエローライト?

そう、文字通り黄色のライトです。

なぜそういうライトを使うんですか?

端的に言えば、製品がダメになってしまうからですね。
手持ち花火と一緒だと思えば良いです。
ゴム系ネガ レジスト

コンタクト露光
- 初期の半導体生産に使用されていたネガ型フォトレジスト
- ベース樹脂は環状ゴムで、感光物質はビスアジド化合物
- 写真印刷製版の技術を半導体微細加工に応用
- フォトレジストの国内生産の要望が高く、東京応化工業が初めて国産化
- フォトマスクとレジスト塗布されたウェハを密着させるコンタクト露光を採用
☞フォトマスク解像度がレジストの線幅を決めてしまう
☞微細化には限界があった
ノボラックーナフトキノンジアジド レジスト

プロキシミティ露光(左)と縮小投影露光(右)
- 微細加工を行えるプロキシミティ露光が主流となる
- これまでのネガ型フォトレジストから微細加工に有利なポジ型フォトレジストへシフト
- ベース樹脂はノボラック樹脂で、感光物質はナフトキノンジアジド
- ポジ型フォトレジストについても東京応化工業が初めて国産化
☞1970年代頃から日本合成ゴム(現:JSR)もフォトレジスト産業に参入 - 狭い線幅の要求に伴い縮小投影露光が誕生し、用いる光源がg線、i線と短波長化
- 一方、1990年頃には線幅が0.35μmと限界を迎えていた
化学増幅型 レジスト

液浸法
- i線縮小投影露光に代わるKrFエキシマレーザーを利用したステップ・アンド・スキャン露光が主流となっていった
- 一方、エキシマレーザーの露光強度が弱く、フォトレジストにはg線、i線よりも高感度の材料が求められた
- そこで、ベース樹脂をポリヒドロキシスチレン、感光物質はスルホニウム塩などの光酸発生材(PAG)に変えて、高感度化を達成
☞この頃から、信越化学工業が最後発でフォトレジスト産業へ参入 - また、KrF露光からさらに短波長のArF露光へ移行した際、それまでのべーし樹脂であるポリヒドロキシスチレンでは波長を吸収してしまう
☞ベース樹脂をアクリル酸エステルポリマーへ変更 - さらに、ArF露光での線幅をさらに狭くするため、液浸法へ移行していった
EUV レジスト
- 5G時代の到来に伴い、スマートフォン用半導体の性能向上が求められ、半導体リソグラフィーにおける微細化の要求はさらに高まる
- しかし、7nm以下の線幅を目指すと、高額なArF液浸露光装置を何台も並べる必要
- そこで、ArFよりさらに短波長のEUV(=Extreme ultraviolet lithography 極端紫外線)の登場
☞ウイルスのサイズ以下の線幅となる
☞この波長の領域では空気中で吸収されてしまうため、真空で行う必要がある - また、EUVに対し高感度であるフッ素樹脂をフォトレジストのベース樹脂として検討
EUVの詳細記事はこちらになります。
書籍紹介
続いて、半導体業界の動向を知るための書籍を紹介します。
半導体業界は移り変わりが激しいので、出版年月日が新しい書籍がおすすめです。
よくわかる半導体プロセスの基本と仕組み
よくわかる最新半導体製造装置の基本と仕組み
理系の就職・転職サービスのご紹介
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まとめ
今回は半導体化学業界の中でも、日本が世界シェア8割を占めているフォトレジストについて、その役割と歴史を解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
上記の内容をまとめると…
- フォトレジストの役割
- 元はカメラフィルムの露光・現像と同じ技術を利用している
- フォトリソグラフィの場合、レンズが縮小鏡の役割をし投影している
- フォトレジストの歴史
- 半導体の発展には微細加工技術が不可欠である
- 日本で初めてフォトレジストを国産化したのは東京応化工業
- 現代では更なる微細化が求められている。
半導体化学メーカー全般を知りたい方は、下記の記事を参照ください。
これまでフォトレジストの説明を聞いて、分かったような分からないような…、そんなモヤモヤを解消出来ていたら幸いです。
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